ミトンのおはなし

大好きなバルト三国の三角頭のミトン。
初夏のラトビアで毎年開かれる森の中の民芸市ではラトビアの各地方のミトンをたくさん見ることができます。

地方によって使われる色やデザインも異なり、昔は編むミトンを見るだけで出身地が分かったとか。幼い頃から編み物を習い、嫁ぐ頃には長持ちが一杯になるほどのミトンを編んでいたそうです。

エストニアのヘイムタリ美術館を訪れたときのこと、運の良いことにアヌラウドさんご本人に館内を案内していただきました。古い写真を見ながら教えていただいたエピソードがとても印象的で、女の子達が手ぶらで立ち話をしていると「なにを男の子のように話しているの」と叱られたりしたそうです。
それは何故かというと、女の子はいつでも編み物の道具を持ち歩いていて、立ち話をするときでも手をせっせと動かしていたからなのだそうです。
手ぶらで立ち話をしているなんて、もってのほか。ということなんですね。
それだけ手仕事が暮らしと密着していた時代があったというお話でした。

結婚を決めるときにもミトンは大活躍。夫になる人に丹精込めたミトンを贈り、男性はそのミトンをベルトにはさんで見せびらかせて歩いたそうです。想像すると思わずにっこりしてしまいますね。

細かく美しく編みこまれた柄には意味があり、贈る相手の安全と幸せを祈る気持ちが込められています。

美術館には1段に100目以上編みこまれたとてもとても手の混んだミトンが沢山展示してあり、ひとつひとつをじっくりと見て歩くのはこの上なく幸せな時間でした。

民族のアイデンティティでもある大切な存在のミトン。その世界に魅せられて毎年足を運んでしまうバルトの国々は織物、刺繍、衣装、素晴らしい手仕事で溢れたおだやかな空気が流れています。厳しい時代を乗り越えたからこその人々の優しさがいつ訪れても心地よく、幸せな気持ちになります。